出版舎ジグ
jig-web 連載

コロナの夜明け と どんでん返しヘッダー画像

ワリピニ通信 菊池木乃実

コロナの夜明け と どんでん返し

「木乃実、見てごらんよ。誰かが、港をブロックしているみたいだよ」ある日の夜、フェイスブックを見ていたポールが言った。大きなトラックがプエルト・シスネスの港の桟橋の入り口に横付けされて、交通を妨げている。数人の男性グループと港の管轄をしている海軍のオフィサーたちが、何やら話し合っている様子がライブストリーミングで流れていた。

「政府は、昨日から港にチェックポイントを設けると発表したが、チェックは何も行われていないじゃないか」と、トラックのオーナーは激昂して言った。「鮭の養殖場で働く労働者は、チェックなしで港に入ってきて、村のホステルに寝泊まりしている。明朝には、フェリーに乗った観光客も下船してくる。彼らがウイルスに感染していて、村人にうつす恐れがあるというのに、それを黙って見てはいられない。村には高齢者がたくさん住んでいる。自分の母親もそうだ。彼らが感染したらここには治療施設がないのだから、明日の朝までに、きちんとしたチェックポイントを設置してほしい。それが実現するまでは、トラックを動かさない」と言い続けた。

20分ぐらい、言い合いしていただろうか。海軍の役人は初め、彼らをなだめていたが、次第に人々が集まってきて、口々に、「外から来た人が村の中に入らないようにしてほしいだけだ。フェリーから下船した乗客は、住人だけ入れるようにして、他の人はバイパスを通って行けるようにしたらいい」、「鮭の養殖場で働く人たちは、毎日体温検査をして、感染していないことを確認してほしい」と言うので、しまいには、「分かった。州政府に相談して、何とかする」と約束し、トラックの持ち主は車を移動したのだった。それが、3月20日の出来事だった。(

すると、翌21日には、港には警察が派遣され、下船した乗客に体温検査をするチェックポイントが設けられた。すると、それをきっかけに、あちこちで、抗議行動が勃発した。

プユアピという港町でも、住民が村の出入口をブロックし、ポイントの設置を要求した。プユアピには有名な氷河国立公園があり、観光が主な収入源はなのだが、レストランや宿はあっという間に閉鎖され、「観光客は来ないで」というサインが掲げられた。また、州都コヤイケ市のバルマセダ空港に降りた乗客2人が感染の疑いがあるとして隔離されたため、住民が路上でタイヤを燃やして抗議行動をして空港閉鎖を求めた。これに対しては、保健相の州代表が「乗客すべてに体温検査を行うとともに、空港の消毒を強化する」と約束した。(

アイセン州を南北に走る唯一のハイウエイ、アウストラル街道沿いにも、チェックポイントがいくつか、設けられた。アイセン州の北の入り口である私たちが住んでいるラフンタ村にも、軍隊がやって来て、22日にチェックポイントを設置した。住民以外は地域に入れないようにすることと、体温を測って感染の可能性のある者を隔離するのが目的だった。また、この日、夜10時から朝5時までの夜間外出禁止令が全国に出された。(

それでも、住民の不安は増すばかりだった。この時点で、中央政府は、クラスターが多く発生した地域のみを閉鎖する対策を取っていて、感染者が少ない地域には閉鎖命令を出していなかった。アイセン州は長さ800キロに及ぶにも拘らず、コロナウイルスの感染患者を治療できる病院が1つしかなく、人口10万人に対してICUベッドは8台しかない。

この日までに州内で確認された感染者はクルーズ船の乗客一人だったが、クラスターが発生してから対応するのでは、遅いというのが大半の住民の意見で、24日には、アイセン州の約20の団体が、州の完全閉鎖を求めて保険相を相手に訴訟を起こした。(

すると案の定、翌日、25日には、2人目の感染が確認され、31日には、3人目の感染者が確認された。2人目は、クルーズ船の乗客に付き添った救急隊員で、3人目は、州外から来た鮭の養殖場の労働者だった。そこで、市長・村長たちは、緊急対策会議を開き、州外から来た者には、全員例外なく、14日間の隔離を義務付けると発表した。また、鮭の養殖場で労働者に対しては、直接船で養殖場に出入りするようにし、港町に入ったりしないようにする対策を取った。(

【ワリピニ通信】 連載一覧

↑

新刊のお知らせ