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〈自由〉の〈門〉をめぐる話 阿古智子 その2

行政と議会

門の公開は基本的に学校が休みの日に行うことになっている。盗撮の可能性などを考慮し、門の周りに柵や塀を設けるというのだが、現在矯正研修所にある門を撮影に来ている人たちが、そのついでに子どもを盗撮するようなことはあるのだろうか。そうした行為を阻止するというのなら、公園に来る一人一人もチェックしなければならなくなる。

学校は地域に開かれた場所であるべきだ。
新しく建設される「平和の森小学校」の敷地内には、地域開放型図書館やキッズプラザも併設される。門を校舎で囲い込んでしまうのではなく、景観を崩さないよう配慮した上で、一定の柵などを設けつつも、子どもたちが普段から学校にある文化財として誇らしく門を目にすることができるように、公開の際には門の周辺のオープンスペースでちょっとした活動ができるように、校舎と門の配置をやり直すことはできないのだろうか。多くの疑問点が湧き出たため、「平和の門を考える会」メンバーは文書にまとめ、区長室に届けた。

代替案の「平和の門」部分(3パターン)図
代替案の「平和の門」部分(3パターン)。開放エリア(朱色)と学校エリア(水色)、見学スペースの等の空間が開かれている。

 

このような細々とした活動を続けている間に、現区長が提案していた平和の森公園の設計案が区議会で、一票差で否決されたというニュースが飛び込んできた。自民(11名)と公明(9名)の20名が反対し、共産(6名)、立憲民主(6名)、都民ファースト(3名)、無所属(4名)の19名が賛成、無所属の1名が退席によって棄権したのだという(議長は投票せず)。

中野刑務所があったところに現在の平和の森公園があるのだが、ここは広大な草地広場が区民の人気を集めている。前区長は、この半分以上の面積を使って、300メートルのトラックと100メートルコースをつくり、草地広場にあった築山をコンクリートの滑り台に変え、さらに、園内灯と5基のバーベキューサイトを設置するという計画を立てた。この案を実施するためには、多くの樹木を伐採しなければならない。区民の反対を受けて計画見直しを掲げ2018年6月の選挙で当選したのが現区長である。あらためて、草地広場の大部分を維持する案が現区長から提示されていたのだが、議会での一票差の否決で、いとも簡単に元の計画に戻すというのだろうか。

参考:中野区「平和の森公園再整備(第二工区)の経過ついて」
(最終更新日:2019年1月24日)
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/504000/d026098.html

立憲民主、国民民主の推薦を得て当選した現区長案に、前区長を支持した議会多数派の自民と公明が反対する構図は、まさに議会と行政のねじれを表している。門の保存にも、このねじれが持ち込まれる可能性を考えて、保存優先で事をあらだてぬよう、慎重な策を考えるべきなのだろうか。それにしても、4階建ての校舎で門を囲い込むような設計案は、どのような人たちの、どのような意見が、どのようなプロセスを経て採択された結果なのだろうか。

 

都道328号線建設の計画見直しを訴えて小平市の住民運動に深くコミットしてきた哲学者の國分功一郎は、民主主義には主権を立法権と見なす前提がある、として次のように述べている。「実際に物事を決めている行政の決定過程に民衆が全く関われなくても、“民主主義”を標榜できるようになってしまっている。」
(『来るべき民主主義』幻冬舎、2013年、P.15)

 

筆者は本稿執筆のタイミングで台湾に学術調査に入っていた。戒厳令下、国民党政府による反体制派に対する弾圧によって多くの政治犯を出した台湾では、台北郊外の景美や、南東部の緑島(台東から船で約1時間)で監獄として使われた施設を人権文化園区として保存・公開し、人権学習の場として活用している。

台北郊外にある台湾・景美人権文化園区
台北郊外にある台湾・景美人権文化園区。戒厳令が敷かれていた「白色テロ」の時代に実際に使われていた監獄や軍事法廷を活用した人権学習の場となっている。
台北郊外にある台湾・景美人権文化園区
台湾の緑島旧監獄施設で、記念碑を見つめる日本から訪れた学生たち。「あの時代、多くの母親たちが、この島に閉じ込められた子どもを想って、夜通し泣き続けた」とある。

平和の森小学校の新校舎の設計や建設に至るプロセスは、非常に不透明であり、住民参加の余地も限られている。「考える会」のメンバーは、これまでに何度も区の関係部署の担当者に面会したが、担当者の説明では、事業の決定や実施の過程は全く見えてこなかった。

矯正研究所跡地に残る旧中野刑務所正門前で解説プレートを読む見学者たちの写真
矯正研究所跡地に残る旧中野刑務所正門前で解説プレートを読む見学者たち。現在は周りに柵が設けられており、見学は受け付けていないが、柵の外から見ることができる。

[出典画像]

  • 旧中野刑務所正門=平和の門の写真:2015年4月撮影、「平和の門を考える会」提供。
  • 平和の森小学校設計代替案の図案:「平和の門を考える会」提供。
  • 台湾の景美人権文化園区および緑島人権文化園区の写真:2019年3月、筆者撮影・提供。
  • 平和の森小学校新校舎については中野区のサイトも参照:平成31年(2019年)1月中野区教育委員会事務局子ども教育施設分野「平和の森小学校校舎等整備基本構想・基本計画(案)」

https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/655000/d026738_d/fil/heiwanomorikihonkousouan.pdf

あこ ともこ 現代中国研究、社会学、比較教育学

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