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いただきもの おすそわけ 山内明美 その1

シロウオ

「昔は、どこの川にもシロウオがたくさんいた。春の食卓には、お味噌汁か、卵とじが美味しいね。夕方になると、子どもたちはお椀を持って、水尻川にお使いにやられた。1杯50円くらいだったかな。」
いつか聞いたことがある。私が物心つくころにはもう、シロウオはスーパーで売られるようになっていた。お椀で買いに行けたら、どんなに楽しいだろうと思った。

 

春先になると、三陸沿岸部の河川にはシロウオが遡上する。石積みのザワが仕込まれると、「もう春だな」と思う。
シロウオは、ハゼ科の透明な魚でお腹のところにまあるい気泡のような内蔵が透けて見える。成魚でも5センチほどである。Wikipediaの受け売りで恐縮だが、日本と朝鮮半島に分布しているそうで、煮ると真っ白になるので、韓国語では「死白魚、사백어」(サベゴ)と呼ばれているそうだ。

 

春の風物詩でもあるこの魚は、地域によって様々な漁法が知られている。とりわけ、南三陸町伊里前いさとまえ川の石積みのザワ漁は、優雅で原初的な漁だ。V字に石を積んで、シロウオを誘導し、ザワの先に置かれたカゴにシロウオが入る仕組みになっている。とはいえ、石積みは隙間だらけだし、満潮になると水嵩が増すのでシロウオは簡単に逃げられるようになっている。根こそぎ捕獲しようと思えばできるのだが、それはしない。
私が子どもの頃は、シロウオ漁は年配の女たちが多かった、金儲けとは無縁の漁で、みんな楽しみにやっているようだった。もともとザワ漁は、売るための漁ではなく、春の風物詩を楽しむための漁なのだろう。おすそわけするための、楽しみ。根こそぎ捕獲しようとしないことは、たぶん暗黙のルールでもある。

シロウオも乱獲や気候変動、水質汚染などが原因となって年々収穫量が減っており、現在では絶滅危惧二種に指定されている。伊里前川のザワ漁が存続できるかは、わからない。そのうえ、東日本大震災後の復旧復興工事によって、おそろしく高くなった堤防と護岸壁に囲まれて、そら寒い風物詩となり、ただシロウオを食べるってことだけじゃなくて、あの伊里前川に悠々とのぼってくる可愛いらしいシロウオを川辺で眺めているのが好きだったのに、風景はまるごと変わっていく。

なんだろう、ものすごく大切なものを、どんどん失っているような気がする。風景には、空があって、土があって、三陸なら海があって、心地よい風が吹いて、日が差して……そこに無数のいきものたちが一緒に暮らしている。そのおすそわけを図々しくももらって私たちは生きてきた。
今年も最初のザワがかかった。シロウオが来てくれるのかはわからない。

[画像出典]

  • 写真は1〜4枚目:筆者撮影、2016年4月防潮堤工事がはじまる直前に。
  • 5枚目:南三陸町の千葉和恵さん撮影 、2019年2月19日。今年もシロウオ漁は3月1日からはじまるそうです。

やまうち あけみ   日本学・地域社会学・歴史社会学

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