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『ひらけ!モトム』によせて

2023年5月、広島~江田島 世田谷に暮らす団塊世代の重度身体障害者・上田さんの旅

その0

モトム、故郷に帰る

出発 編

5月6日(土) 世田谷:快晴やや強風 広島:雨 

――モトムさんが世田谷で暮らし始めてから、この辺って随分変わりましたか?
「前は、マンションの窓から三軒茶屋の駅が見えたの」

――モトムさんの部屋の窓からですか? よほど高い建物がなかったんですね
「そう、そう」

モトムさんの世田谷暮らしの時間の厚みは、自立生活や権利の格闘だけでなく、街や駅の姿、人びとのふるまいに感じる。ので、道中、こういう話も記録していきたい。

さて、田園都市線三軒茶屋駅の、改札通過までは大変スムーズだった。
「駅員が参りますので、しばらくそちらでお待ちになっていてください」
と言われた3人は、駅ホームに降りるエレベーター乗り口脇で、駅員さんをまつ。

5分経過。
お年寄りや、GWのおでかえのベビーカーのご夫婦、
やはりGWの大型スーツケースを引きずる若い男女、何組か、さらに何組か、に
「あ、どうぞお先に」
とお声がけする。みなさん、モトムさんを気遣って遠慮しつつエレベーターに乗り込んで降りていく。

10分経過。
たぶん15分くらいは、経過。

もっとかもしれない、測っておけばよかった。次回からは駅員さんにお待ちくださいと言われたら、時間を測ることにする。
ツルさんが何度か改札脇窓口に様子を聞きに行くと
「立て込んでいるのでもう少しお待ちください、あと2〜3分で参ります」

さらに3分以上は待ったと思う。測っていればよかった。

もしかしたら、この体感待ち時間は、モトムさんや介助者ツルさんにとっては、さほど長くはないのか。なぜ、ここでずっと待っているお客より、他のお客への対応が先になるんだろう、と、私はやはり、思う。

ないがしろにされているような失礼な対応はないが、それでも、そう思う。

表示を見ると、どうやら事故の影響で遅延も出ている。GWの忙しさの中、もろもろの優先順位がどんどんずれていくのだろう。駅員の対応は丁寧で、それぞれの場面の応対はきっちりやってくれるので、文句は言いにくい。

駅員さんを待たずに勝手に乗車しちゃえばいいじゃん?
と口にしそうになる私だが、その選択の場合は、その後の降車駅での降車対応、直近エレベーターへの移動、乗り継ぎに最適な乗車位置案内、乗車支援、新幹線改札までの最適経路案内といった、鉄道会社サイドの連携を期待できなくなる。

場合によっては、予想外の親切で「危険防止のため」のじゃまが入る可能性もある。しかも、自力で幾つものバリアフルをクリアせねばならない――と思い黙ることにする。

 >> 再び、モトムさんの旅からしばし離れるので、飛ばして読んでかまわない。

30年、いや40年前の、車椅子利用者は、これらバリアフルの突破を、すべて現地調達=その辺りにいる人にむかって声をあげて手伝ってもらい、やってのけていた。(そのころ、週1程度の介助者をやっていた私は憶えている。)

今、それ=身近な人に助けてもらえるよう自分で声を出すこと、をすべての行程でやるのは難しいし、そうすべきとも思わない。そういうふうに、その場で互いの直接のコミュニケーションに基づいて動く社会のほうが生きやすい、かもしれないけれども。

 

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