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香港 あなたはどこへ向かうのか 6 阿古智子

スターリー・シスターズ - 星の姉妹たち-その4

香港大学時代、寮生活をともにした姉妹たち――スターリー・シスターズにつづいて、その私たちよりずっと年下の女性たちは、今の香港をどう見ているのだろう。大陸出身の両親をもち、香港中文大学と日本の大学院で政治学を学んだエミリーにつづいて、ルカの話を紹介したい。

ドキュメンタリーを製作している友人を通して出会ったルカは、待ち合わせ場所に指定していた沙田のショッピングモールのカフェにスポーツウェアで現れた。日本語を少しかじっているというが、発音がとてもきれいで、しばらくおしゃべりが日本語で続いた。このまま続けられそうだと思ったが、複雑な内容の話題に至ると、私たちの会話は英語に切り替わった。

ルカは警察署で広東語、普通話(標準中国語)、英語を駆使し、被疑者の取り調べなどを主に担当する通訳官として働いていると聞いていたので、警察内部から何を、どのように見ているのだろうと思いながら彼女に会った。

詳しく聞いてみると、通訳官として正規に雇用されているのではなく、契約ベースの非常勤のようだ。つまり、彼女は警察署内で働いてはいるが、警察内部のメンバーとしてどっぷり浸かっているというより、少し斜めに警察の様子を見ているのであった。ルカは「催涙ガスなどを浴びる危険のある前線にはいかないけれど、毎週のようにデモには参加している」と人懐っこい笑顔を見せながら話した。ただ、デモにいく際には慎重を期して、いつも仕事関係で使っているものとは違う携帯電話を持っていくのだという。

L「警察署の中ではね、通訳官5~6人が同じ部屋で働いているわ。30代の人もいるし、もっと若い20代の人もいる。互いにあまり話す事はない。でも、デモが度々行われるようになって、少しずつそのことについて話し始めた。TVBなどのテレビは、デモ参加者こそがトラブルメーカーだと報じているけれど、私たちは警察がやっていることがよいとは思えない。身近に催涙弾を撃たれるところを見たりしているから、職場内でもストレスになっているしね。会話や行動などに関して、特に私たちが政治的に圧力を受けているということはない。通訳官の中にも、政府寄りの人もいるし。」


L「ある時、私は署の1階にいたのだけど、2階から警官がランダムに人々に銃を向けていたの。本当の銃ではないと思うのだけれど。私自身は勇武派には入らないけれど、抵抗を続ける彼らが弱い立場にいることを理解できるのよ。彼らは警察のように重装備で闘おうとしているわけではない。警官は完全に武装しているから安全だけど。

L「食堂で警官たちが食事をしているのに出くわすことがあるの。彼らは抗議者たちを汚い言葉で罵った。警察署で長年働いていると、そうした言葉を使うのに慣れてしまうのかしら。広東語にはスラングがあるのよ――“あいつの妻をやってやった”とか “この犬野郎”とか。日本語にはこのような下品な言葉はあまりないでしょう。香港の人たちは普段は平和的なのだけど、汚い言葉を使うこともあるわ。

L「上海から香港に来ていた人が、非合法集会で捕まったことがあるんだけど、彼が心配したのはむしろ釈放後、帰国したらどうなるかということだった。自分の国で何をされるかわからないから、サインするように言われても保釈申請書にサインしようとしないの。通訳官をしていると分かるけれど、広東語ができなくてコミュニケーションに支障が生じる人もいるし、警察に拘束されているからといって実際にデモに参加していたのかどうかわからない人もいる。マクドナルドに行こうとしていただけだとか、ただ関心があって見ていただけだとか。それなのに拘束されて、私たちは彼らをトイレに行く時でさえ監視しているように言われる。」


L「警官たちは“踏浪”なんて言っているのよ。ブリーフィングの時にも、抗議者を悪者とみなして、“洗脳”しなければならないというようなことを言うの。警官は皆、登録した番号を身につけているけれど、最近は、外出時には番号が見えないようにしている。誰であるのかを特定されたくないから。これまで警官は、そう簡単には手を出さなかった。でも、抗議が激しくなり、少しずつ取り締まりの方法を教えられ、力を行使するようになった。彼らは抗議者を非人道的に扱うの。でも、香港警察のホームページを一度見てみて。ニューズレターに「警官にとってモラルとは?」とか、毎回のように書いてあるのよ。一体、警察の文化って何? モラルって何? 規律って何?」

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