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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

何桂藍Facebook からの発信

(日本語訳) 阿古智子、エスター

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深刻なのは、彼らが被告に自らの体験を否定するよう
強いていることにある。

16.被告席に座りながら、私はこれまで読んだ歴史上の裁判を頭の中で思い返していた。何十年も経った今、反抗的で威厳ある数々の弁護は、最終的には自ずと勝利に達すると思われた。しかし、政権の支配が絶対的であり、変化の兆しがどこにもなかった当時、人はなぜ確信があるにもかかわらず闘い続けることを選んだのだろうか。

17.  検察が展開する物語は、事実の歪曲や一般大衆への脅しだけの問題ではない。さらに深刻なのは、彼らが被告に自らの体験を否定するよう強いていることにある。すなわち、真の連帯など妄想にすぎなかったのだ、と。これほどに異なる人びとが互いにむすんだ強固な絆や一体感、率直な会話など結局はありえないのだ、と。違いの中で団結し、より良い未来のビジョンを分かち合う困難な協働作業など、理想主義者の夢にすぎなかったのだ、と。

18.  いや、そうではない。これらは単なる理想主義的な夢ではなく、私が生きてきた現実なのだ。私は、そのようなつながりが可能であるだけでなく、実際に存在し、存在し続けていることを証明するために闘うことを選んだ。ここでの唯一の妄想は、残忍な抑圧がその存在を否定できるという思い込みだけだ。

19.  こう語るのは、責任感からでも、道徳的な責務からでもない。私の中には、私が目撃し、経験したことを正当に扱って欲しいという強い思いがある。なぜなら、それらは私の一部を構成し、私が誰であったかを定義するからだ。そして、私は今、自分が誰であるかを定義したいと思っている。
***
20.  私はこれらの非難に一人で立ち向かう。個人としてではなく、街頭に立って、街の自治を要求する声を上げたすべての人々を代表する一人として。そして、世界中のどこかで不当な法廷の前に同じ立場に立ったすべての人々として。

 

彼らに敬意を表す唯一の方法は、私自身ができる限り最善の闘いをすることだった。
そして私はそれを実践した。

21.  私は言葉を通じて、現代のロシア、中国本土、タイから、20世紀のシカゴ、台湾、プレトリアと、はるか遠くまで旅をした。私はアレクセイ・ナワリヌイ*6に何度も会った。彼が欧州人権裁判所に提出した訴状は、いま世界中の政治的に告発されている人々が自らの法廷闘争で引用できるよう、公開されているからだ。プッシー・ライオット*7の裁判からは、敵が振るう権力を、逆に利用することを学んだ。言論や信念が彼らにも、自分たちにも不利な証拠として取り上げられるとき、その言論や信念について、心ゆくまで詳細に、合法的に披露する許可が与えられるのだ。

22. そして、中国本土の人権擁護者たちを差し置いて、この訴訟に意味を加えてくれる存在はあるだろうか。彼らは中国の憲法の正当性、人民の力をめぐって、何十年も闘争を続け、さまざまな声明や文章を発信し続けている。

23.  勝訴した人など誰もいない。私が関連の書物を読んだ多くの人々は、誰も知らない場所で、誰にも話を聞いてもらわずに忘れ去られ、厳しい刑に服している。彼らのほとんどは、彼らがどれほど私にインスピレーションを与えたかさえ、知る術がない。彼らに敬意を表す唯一の方法は、私自身ができる限り最善の闘いをすることだった。そして私はそれを実践した。

24.  私は被告席から検察側証人の虚偽の証言に反駁したため、独房に送られた。その直前にマリア・コレスニコワについて読んだ。彼女の裁判は非公開の法廷で行われたが、弁護士らは弁護士資格剥奪のリスクを承知で、判決の日にコレスニコワが3時間弱に及ぶ「道徳的選択、人々への愛、ベラルーシの将来」という最後の陳述を行ったことを明らかにした。

25.  私は、自由を奪うことに加担した人々だけに囲まれ、彼らの(嘲笑ではないにしても)無関心な顔を見ながら演説する姿を想像しようとした。やっぱり、私にはできない。しかし、彼女はそれをやった。彼女は、誰も一言も聞いていないとわかっていながら行った演説で、自分の心の声を吐露した。

*補足注*
*6  ロシアの反体制政治活動家。繰り返し拘束・収監・毒殺未遂があり、2024年2月に収監されていた北極圏の刑務所で獄死、調査報道サイトは「毒殺」と報道。

*7  ロシアの反体制アート・アクティヴィスト、フェミニスト・パンクバンド。派手なファッションと街頭での政治風刺シャウトで活動。2011年にロシア正教会で反プーチンソングを演奏して逮捕・実刑判決をうけた。

 

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