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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

その5 Maruko Chan
(公務員,28歲)

訳 エスター/Esther

2019年のある日、Facebook Messager からRika のメッセージが届きました。

Long time no see and hope you’re doing good! I just watched the news a bout Hong Kong and remember you. I’m really sorry about it and hope yo u’re safe…!( お久しぶり! あなたが元気にしているといいけれど。香港のニュースをみて、あなたのことを思い出した。本当に悲しい。どうか無事でいてくれますように。)

Rikaは私が2014年にドイツで交換留学した時の友達です。連絡を取り合うきっかけが香港の社会運動になるとは、思ってもみませんでした。当時の香港は、反逃亡犯条例デモの最中でした。市民は平日いつも通り出勤し、週末はデモに参加します。デモの参加人数は毎回増えていきました。

夏の香港を訪れたことのある人は、猛暑の酷さを憶えているに違いありません――うんざりする熱気と路上にまいあがる粉塵が混ざり合い、太陽熱が高層ビルの隙間に閉じ込められ、豪雨が突然に降ります。

しかし、2019年の夏には、何百万人の香港人はその酷い天気にも耐えて、何度もデモを行いました。政府に要求を突き付け、まともな回答を勝ち取るために。

最終的には逃亡犯条例が撤回されましたが、その代わりに、数られないほどの人々が逮捕され、収監され、傷つけられ、命まで失ってしまう人々がいました。あれから2年、この文章を書いている現在、国安法が施行されて1年が過ぎました。デモの当日に参加していた人たちは、海外へ逃亡しなければ、香港で次々に逮捕されるはずです。

香港の人びとも、当初は義憤で胸がいっぱいだったのが、それに慣れた状態に変わってしまいました。終わりが見えないコロナ禍に注意が移ってしまったか、心が疲れてしまったか。不正義とでたらめに怒ったり泣いたりする日々を続けるより、酒食遊楽好きの香港人の暮らしに戻りたくもなります。その結果、時事的な話題であふれていたFaceboo k や Instagram などの SNS は、グルメと記念撮影の投稿スペースに逆戻りしました。

 

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