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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

その6 Noir
(建築積算士,27歲)

訳 エスター/Esther

人間の悲しみをランキングしたら、「生き別れ」と「死別」が、1位・2位にランクインするでしょう。「別れ」なんて、自分にはまだずっと先の話だと思っていましたが、30歳にもなっていないうちに、周りの友人たちがひとり、またひとりと香港を離れる計画を立てはじめました。別れが、目と鼻の先ほどの距離にあるのです。

5年前の大学卒業のころ、つまり、私と友人たち、みんなが社会に出ようとしていたころは、何ごとも自分のやり方次第でなんとかなる、と堅く信じていました――粘り強く誘えば、友人たちとのつながりは守っていける、と。毎日会うことは無理でも、少なくともたまに食事したり、最近の出来事をしゃべったり。けれど、コロナ禍と、なんでもかんでも政策を打ち出してくる政府のせいで、私の日常の友だちづきあいさえも、一時停止させられました。

香港の人びとも、当初は義憤で胸がいっぱいだったのが、それに慣れた状態に変わってしまいました。終わりが見えないコロナ禍に注意が移ってしまったか、心が疲れてしまったか。不正義とでたらめに怒ったり泣いたりする日々を続けるより、酒食遊楽好きの香港人の暮らしに戻りたくもなります。その結果、時事的な話題であふれていたFaceboo k や Instagram などの SNS は、グルメと記念撮影の投稿スペースに逆戻りしました。

5日間のイースター休暇に、ついにようやく、いくつかのグループの友だちと、一気に、飲んで食べて遊びました。

私の年齢でいちばん話題にのぼるのは、結婚すること、家を買うこと、子どもを産むこと、です。けれども、今回は期せずして、みんな同じように移民を話題にしました。みんなが香港を自分の家だと思っていることも、すぐに分りました--そして、今の政治・社会の雰囲気のなかにあっては、香港の未来は暗いだけだ、ということも、みんな、よく分っているのです。

言論の自由、恐怖からの自由が欲しければ、香港を出ることが唯一の選択肢だと思われるのです。今日はみんなそろって話したり笑ったりできるかもしれない、でも、すぐ誰かがイギリスに移住するかもしれない、何ヶ月後はまた別の誰かがオーストラリアへ、カナダへ、引っ越してしまうかもしれないのです。

これからは、「モンコックで会おう」の一言でバスに飛び乗るかわりに、飛行機で108,000キロの彼方まで飛んでようやく会える、というわけです。

このあいだ、ラバーバンド*1のライブに行きました。そこで歌われていたある曲の歌詞は、こうです:

 「もしも結局、別れになるのなら
  クールにいこうぜ、まだ地球は回ってる」 ――《さようならの練習》*2

*1 香港で人気の、広東語でうたう4人組男性ロックバンド。2019年の「逃亡犯条例」改正案には反対の立場を公表した。2021年にはトップミュージックポップチャートで、楽曲「チャオ」が「至極の歌賞」を受賞している。

*2 《さようならの練習》:RubberBand – 練習說再見 MV 

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