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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

その8 ZC
(建築/測量/景観/都市計画専門職 28 歳, パートナーと同居中)

(つづき)

――楽しむことがそんなに重要なら、君が大人になってからのこの 10 年で、いちばん楽し かったことは、何?

「一番楽しかった時期は大学の 4 年間だね。なぜなら、それがいちばん自由な時間だった し、学生として、若者として、世界を探索できる最後の期間だったから。その期間には、中 学・高校の頃にはできなかったこととか、社会に出てからは出来なくなったこととか、しな くなったことを、本当にたくさん経験したよ。例えば、仲間と一緒にバカをやったり、大騒 ぎしたり、海外に留学したり、そういったことをね。」

「実際、その 4 年間は本当にすごく楽しかったんだ。当時の生活は乱れていて、ただれてい て、今振り返ると、あの乱れた経験をもう一度経験すると言われても、自分は耐えられるか どうかわからないと思う。それでも、やっぱり、とても楽しかったし、思い出深いんだ。」

「とりわけ、寮生活していると、大人数の男子が一緒になって遊ぶこともあって、それがす ごく楽しかったんだ。俺たちは乱暴なことをたくさんやった、人に知られたらまずいような 内容なんだ。他人に知られたら、道徳的にひどく非難されるようなことなんだろうけれど、 でも、楽しかったんだ。」

――では、逆に、この 10 年でいちばん不愉快だったことは、何?

「おそらく、2019 年の社会運動以降の出来事だ。当時、デモが沈静化し、多くの人が逮捕さ れ、裁判にかけられた、あの無力感だ。」

「正直に言って、この 10 年で最も憂鬱になったのがこれだ。2014 年から 2016 年の間、雨傘 運動の後で社会運動はスランプに陥り、ほとんどずっと、孤立している感じだった。たとえ ば、李國章氏が香港大学の校務委員会代表になったとき、学生は抗議のストライキを試みた けれど、その一連の出来事では、大きな無力感に打ちのめされた。それでも、その時の不快 感は、いまの政府がデモ参加者を追及する状況に比べたら、それほどではない。」

「これは俺たちにつけられた傷痕なんだ。いま痛まなくても、その傷痕は、まだここに、残 っているんだ。」

――君は、この 10 年で自分に大きな変化があったと感じている?

「正直に言うと、自分自身の大きな変化は、あまり感じていないかな…… 成熟した、という ことを除けばね。自分が信じたいと思い、守りたいと思う価値観を、10 年前も、10 年後の 俺も、守り続けることが出来る。」

「例えば、不正義を目にしたときに、他人に流されないようにすることだ。もちろん、俺だ って、100%すべて原則を守っているというわけではない。でもね、俺は「美心」を食べな い。だから、Shake Shack*2 を食べないんだ。」

*2  訳者注:美心は政府派企業で、香港の ShakeShack(ファストカジュアルレストランチェーン)の経営権を 所有している。Triple O はとくに親民主派というわけではないが、親政府派でもない。

「さっきも映画を見る前に、わざわざクソ遠くまで行って、Triple O に行った。あのハンバ ーガーは特に美味しいわけではないって知っているよ、本当に。Triple O で食べているあい だも、ハンバーガーは 90 ドル以上するし、あまり美味しくないから、Shake Shack で 70 ド ルぐらいの美味しいのを食べる方がいいよなって、心の中では思ってたよ。Shake Shack が 美味しいのは知ってる、たまに人がおごってくれることもあるから。あのパンは格別だし、 ハンバーグも美味いし、フライドポテトだって本格的だけど、ね……」

「ただし、それ以外に、俺はケンタッキーを食べたり、ウェルカム*3 で買い物をしたりもす る。だから俺が決意して完璧にボイコットしているのかと問われたら、そういうわけではな いんだ。ただ、特定の相手には、できる限りのことをやり続けるつもりでいる。」

*3 訳者注 : ウェルカムの所有者は怡和集團。怡和集團は親政府派の企業。

 

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