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香港、抗う人びとの歌 2ヘッダー画像

難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

番外編 香港、抗う人びとの歌 2

倉田明子

(つづき)

風刺やあてこすりの歌も

ただ、こうした高尚な雰囲気で、みんなで胸に手を当てて泣きながら国歌だけ歌っている、ということでもなく、現場にはいろいろな歌があり、もっと風刺や笑いがある歌もあった。たとえば、警官に当てこすりをするような替え歌も現れた。

こちらは決してお上品とは言えない歌で、警察官の学歴が低いことをやゆし、罵倒するような内容だ。童謡の「ロンドン橋落ちた」の替え歌で、警察署に向けて拡声器で流される場面が YouTube に投稿されたのをきっかけに流行し、香港各地で憂さ晴らしのようにして歌われた。

こうした歌が香港の街中でどのように歌われていたかの例として、とあるショッピングモールで撮影された動画がある(ご覧になりたい方は、YouTube で「又一城交響樂團演出 合唱《有班警察毅進仔》」という動画を検索していただきたい)。この動画では、まず「民衆の歌」が歌われ、次に「香港に栄光あれ」、スローガンを叫んで盛り上がったところで、続けて「ロンドン橋おちた」の警察の歌が歌われる。歌の現れ方として、ある意味、象徴的な場面だ。2019年の秋は、香港各地のショッピングモールに週末などにゲリラ的に人びとが集まり、こうした歌が歌われていた。

歌手のうたう歌

このほか、プロの音楽家が作った歌で有名になったものとして、Tommy(阮民安)という歌手の「なべ底の約束(煲底之約)」という歌がある。Tommyは自らもデモに参加していた。

「なべ底」というのは、立法会の下のデモエリアを指す言葉だ。やはり2019年の秋頃から、いつかこの運動が終わって目的を果たしたら、「みんなでマスクを外して〈なべ底〉で再会しよう」、というのが合い言葉のようになっていた。この歌はそうした気持を歌にしている。

作詞は、小説家で当時立法会議員もしていた鄺俊宇(ロイ・クォン)、MVには周庭が出演している。勇武派の彼となべ底(の近く)で会うために、香港中を駆け抜けるという映像だ。この曲もやはり、とてもCantopop的な曲調になっている。*1

阮民安《煲底之約》:Youtube EKids(2019)
https://www.youtube.com/watch?v=wrczjnLqfZk

今思えば、私が初めて「香港に栄光あれ」を聴き、「鍋底で会おう」というスローガンを目にしたのは、19年9月8日のアメリカ領事館への請願デモの時だった。

国安法のもとで

2020年6月末、国家安全維持法(国安法)という法律が施行され、香港の状況は一変した。この法律は、北京で制定され、香港で施行されるという、今までにない形で作られた(一国二制度の香港では、香港の法律は香港でつくるのが基本だった)。

この法律によって「国家の安全」をおびやかすと見なされたものはどんどん排除されていき、勇武派の若者たち、あるいは伝統的な民主派のリーダーたちも次々と逮捕されている。反政府的な立場をとっていた新聞「リンゴ日報」も取り締まられ、停刊となった。そして「光復香港、時代革命」のスローガンも国家安全維持法に抵触する可能性がある、とされ、事実上の禁句になった。

だから、この文字を含む「香港に栄光あれ」も、もう香港では歌うことはできない。

*1 小栗宏太「「煲底之約」(鍋底の約束)という香港デモの歌の話」noteブログ、2019年11月27日 https://note.com/sasaleut/n/ncba333afb7e7?magazine_key=mb916861f4b96

 


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