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どら猫マリーのDV回想録 番外編

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前回までのマリーさんは2匹の仔猫をつれ「おとなりの国」から逃亡途上のシェルターで、さまざまな国から結婚移住し、ままならなくなって、やはり逃げているママ猫たちと出会う、そんな回想の後編でした。今回は逃亡のその後の、2匹の仔猫=ポーとエリーのおはなし。このあたりで、jigから、少々の補足コメントを挟みたいと考えました。(jig)

どら猫マリーや仔猫のポー&エリーは「実在の猫」なので詳細補足はさておきましょう。

「おとなりの国」については、マリーさんの迷いがあった。「実在猫」の本名を明かさないのはもちろんだが、場所や時期をどこまで明確に書くか。それを書くことに何を込めようか、と。第3回・第4回の「プレイバック・パンデミック・パニック」には、その思いがぎっしり詰め込まれている。

この「物語」を書くうえで、避けたいけれど避けられそうにない事柄がいくつかある。この疫病もその一つ。新型コロナをめぐる一連の動きは、私の過去を否応なく想起させる。でもこれを書いてしまったらその国が特定されてしまう。でも、書きたい。そんな迷いがありつつも書いてみる。(第3回より)

当時その国はMARSが流行して、経済は停滞して、子どもたちは生まれてかわいいさかり。(第4回)

今でこそコロナが流行ってみんな分かったけど、当時は分かってくれる人はほぼ皆無。/病気が流行ることと、経済が停滞することと、それに巻き込まれていくことと、ドミノ倒しのような状態を想像することは、感覚的に分からない領域だったと思う。(第4回)

経済への打撃は夫の正気を奪っていったし、得も言われぬ不安は姑のアルコール依存症も悪化させた(たぶん、ね)。/私は2人を抱えて立っているのが精いっぱいだった。(第3回)

何もしてやれない、未来が見えない、母親はアルコール依存症、妻は外国人という境遇。孤独は計り知れない。とにかく毎朝、毎晩、吐く。寝る直前まで映画を観て、朝はだいたいテレビはつけっぱなし。/見るに見かねて日本の両親がお金を送ってくれたことがあったけど、心の安定につながることはなくて、彼の中で惨めさが増しただけだった。郵便局に入金を確認しに行く道すがら、彼はやっぱり嘔吐した。(第4回)

彼とは、マリーさんの元夫君。中東呼吸器症候群=MARSが襲った「その国」とは、揺らぎつつ揺り戻されてなお強固なジェンダー規範・親族規範の国、韓国。
今やその国の変化と成長のエネルギーに憧れつつ、歴史的加害者性をひきずりつづけているのは、マリーさんの故郷・日本。

その日本という国で、「彼の国」を名指しながら、そこで直面した出来事をWEB上で語るなら、なにか暴力的な言葉、いわゆる嫌韓感情的な攻撃を、「こちらの国」の読者から投げつけられはしないか。その可能性はあまりに大きく、マリーさんは悩んだ。

次ページへつづく


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