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どら猫マリーのDV回想録 その7

ニシキヘビ

コロナはとどまるところを知らず。
それでも続く日常は続く。
韓国から避難して数年。どら猫だの、虎だの勇ましい比喩を用いた自画像はどこへやら……。コウバコを組んだ猫と化した。

平和だ。目に見えないウイルスの脅威がすぐそばにあっても、平和だった。
「〇〇さんのところ、奥さんから始まって、次は旦那さん。お子さんはまだみたいだけど、家で子ども3人缶詰だもん。ストレスたまるよねー」なんて会話に、「だよねー」と笑っていられるのだから。

コロナは、私の人生に味方した。
韓国ではマーズ、私たちの家族が破綻する要因の一つだった。
しかし、誰一人として理解しなかった。感染症の蔓延と一家離散とが結び付かないのだ。

人間の力ではどうしようもない事態に狂わされた家族の運命なんて、当事者意識に寄り添える人間はそうそういない。日本がこういった事態になって、「大変でしたね」と言ってもらえる機会は増えた。

「私のめいも上海にいるの。旅行雑誌を作っていたけど、今は旅行自体が無理。日本にもかえって来られない」とか。国際結婚だと、どっちの国に行ったら得か?みたいな議論になるらしく、戦々恐々とするらしい。

先週まで陽性患者で、つい先だって職場復帰した仕事仲間。「とにかくのど!飲みこめないの、のど!」と、よく、しゃべる。その、飲み込めなかった喉を駆使して。もちろん、そのあとには「食べられなかったのに、体重減らない」という話が続く。その流れは分かっているのだけど、聞いてしまうし、笑ってしまう。職場に久々の活気が戻る。業務はつつがなく遂行されていたが、彼女のいないあいだ、事務室は本当に静かだった。

何もなかったみたい。「家庭内暴力」。
でもあったのだ、暗くて、怖くて、おびえていた日々が。
おびえていた自分が情けなくて強くなりたかった。
へらへらと笑っていた日々。
へらへらする。へっちゃらだから。へらへらする。なかったことにしたいから。
へらへらして、何かを保つ。おどける。夫の機嫌を損ねないように。

 

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