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どら猫マリーのDV回想録 その8

マリーの逃亡劇 “アジア女性の連帯” 編

久しぶりに陽性判定の連絡を受けた事務所。コロナなんてもうどこか別の国の話か、あるいは過去かと思っていたのに、また、身近なものとなってきた今日この頃。
事業所はそれに加えて苦難の夏を迎えていた。

元は都が管理していた施設。たしか建設は昭和40年代。決して新しくはない建物に、施設の使用目的が変化したり加わるごとに増築、増築が加わって、訳の分からない状態になっている。空調は今だ、集中管理システムを使用中。

集中管理システム。こうやって書くとかっこいいけれど、冷暖房の切り替えは業者が来訪して何か作業しないとできない、という化石のような代物。しかも冷房への切り替えどころか、不具合が見つかり修理の予定。後付けのエアコンがあるのは2部屋のみで、その2部屋は基本的に、温度調節が苦手で動きがとりにくい重度の利用者が使用している。

水道の受水槽には漏水が見つかった。そのせいだろうか、トイレの水が時折流れず、水道が止まることもしょっちゅう今に始まったことではない。

「あれ、水道、お休み中ですかね」と、ユーモアを交えて伝える同僚を私は尊敬している。
だから、うちの事業所のトイレ付近にはバケツがぽつんと置いてある。水道の蛇口にも2種類あって、受水槽を経由しない水道管直結の蛇口から水を汲み、トイレの水として使用するためだ。

ちなみに、この事業所は重度心身障害のある皆さんと日中生活している。バケツ…と言えば…、水への拘りが強く、水の入っているあらゆる器はひっくり返さないといられないという特性を持つ人もいるのだから、これでは支援なのか感情を逆なでているのか分からないではないか、と苦笑してしまう。トイレひとつ流すのも一苦労だ。ちなみに、施設長会が開かれている場をその人が見かけたらもう大変。おもてなしの湯飲みをいくつか、ひっくり返そうと猛ダッシュ。しかしそこは社会福祉法人の施設長たち。気配に気づくと皆さんで一気飲み。からっぽになった湯飲みをみんなで見せて「ほら、ありませんから、安心してくださいね」と笑顔で一言。ものすごいおじさん集団だと思う。

それに加えて今年は冷房問題。抱きかかえたり、支えたり、ただでさえ密着度が高く、運動量確保や能力維持のための活動が多い。ということはずっと基本、動いている。じんわりと汗をかく。あおいでも、Tシャツをばふばふとさせても変わらない体感気温。外はもっさりとした空気。この文を執筆している現在は、梅雨真っ盛りだ。それでも多少は異なるかと、私は窓を開けた。が、その瞬間!

「マリーちゃん!危ないって。」
と、先輩職員が一言。
「朝礼で言ってたじゃん。そっちだよ、スズメバチ」
……そうだった
……耳をすますと聞こえてくる。ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ……

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