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どら猫マリーのDV回想録 その7

ニシキヘビ

手のひらでたたき、こぶしでたたいた机につっぷすのは私本人。
頭のあたりに感じる、なんだろうこの生暖かさ。
足音もなく近づくのは、間違いなく、猫…マリーさんだ…! 豊かな毛並みを見せつけて、私の前に横座りすると胸元や腹をなめ始める。その眼光は何よりも鋭い。

そう、暴力は、「事件」ではなかった。
事件ではないのに、私は事件を探し続けていたのだろう。
家庭内暴力は事件を中心にして起こるのではない。日常が暴力化していることが問題なのだ。そこには愛があり、信頼があり、絆がある。許しが、寛容さがあるべきだと。それがDVであると認識すれば同時に、「大切な」家庭が壊れるようになっている。

渦中にいる人間に向かって何かがささやく。男らしさか、女らしさか、時には教科書が、親の生きざまが、CMでほほ笑む女優が… 日常にあふれた「らしさ」という常識が。そういった何かがささやくのだ。失いたくなければ見過ごせ、と。

「悪い人ですね。はもには。」ポーがつぶやく。
はもに、とは、韓国語のハルモニが舌足らずになった、言わば、ポー語、だ。

人生の半分を日本語で、後半を韓国語+機能不全家族で育ったポーは、言葉の発達が遅い。機能不全なのは本人の能力のためのように語られて過ごした9歳がつぶやく。

いや、「はもに」は悪い、のではない。ちょっと変わってはいた、けれど。
彼女自身がアルコール依存症で、そうなるべき人生であることは……理解はまだ無理かもしれない。「はもには、ちょっと、気持ち悪かったです」とぽつり。はっきり言いますね……。私が預かるからと、よちよち歩きの2人を連れていった「はもに」の後ろ姿。それは、孫をかわいがる姿そのものだった。私を排除することが目的だなんて思わなかった、申し訳なく思った。「少し休みなさい」と彼女は言った。

私は独身のようだと周囲からうらやましがられた。

 

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