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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

その2 張同學
(中学6年生,18歲 )*1

訳 エスター/Esther

この文章に取りかかっている今、ちょうど「文憑試*2」を終え、長いのんびりした夏休みの最中です。ここ数ヶ月はずっと受験勉強に没頭し、外の世界とは切り離されたように、全身全霊で復習に集中しました。最後の科目の受験を終えたとたん、様々な気持ちが一気に浮かんできました。

勉強休暇*3のあいだ、高校教育改革の報道でSNS上があふれかえったことを思い出しました。「通識科*4(リベラルスタディーズ)」のカリキュラムは大幅に変更され、「権力間の抑制と均衡」や「市民的不服従」といった概念の扱いが小さくなり、あるいは削除されます。これに取って代わるのは、国に対するおべっかと称賛です。通識科の教師は既に、今年の出題には政治的に微妙な問題は出ないだろうと予測し、社会や政治参加は復習しなくていい、とアドバイスしました。

しかし、正規の授業科目でこれらの概念を学ぶのは、私たちをふくむ数学年で最後だとわかっています*5。将来、通識科(「公民と社会発展科」と改称されることになっています)が批判的な思考を重視しなくなったら、後輩たちは中国政府のとる考え方でしか勉強できなくなる、このことが心配です。
未来の彼らが中国政府のとる考え方でしか勉強できなくなることが悲しいし、自分がまだ多様な概念を学べるありがたさを実感します。これらの概念を理解し記憶し、未来の社会のために用いる責任があると、自分は意識しています。

とはいえ、私に何ができるでしょうか? 高校生になって、私は法律を専攻しようと決意しました。司法制度を通じで社会に貢献し、法治の擁護のため努力するのです。しかし、この2年間、政府(中国と香港)の権力が拡大する一方、法律がどんどん権力者の道具になっていくことを目撃しています。

呉靄儀(マーガレット・ン)さんや李柱銘(マーティン・リー)さんなど法曹界の著名人が、無許可の集会を組織し参加したことに対して、有罪判決が言い渡されました。私は、これが法治精神を示す行為だとはみなしません。逆にこの判決は、香港の法治の無力さを充分にさらけだしたと考えます。有罪判決を言い渡された多くの方は、立法・司法機関を通じて社会に貢献することを望んでいるもかかわらず、深い無力感から、デモや請願で訴えるしかないのです。

高校生として、私はやがて大学の専攻と将来の職業を選びます。法律はまだ、正義を守れるのか否か、法曹界はまだ、私が身を投じようと最初に決意したのと同じ法曹界なのか否か、迷います。主流メディアはいつも、最近の判決が法治精神を示していると言いますが、私の心にはいつも、数えきれない疑問と疑念があります。

このような疑念と当惑があるから、法律の勉強のため、海外留学することを決めました。香港の大学の政治的な雰囲気がますます色濃くなるにつれ、大学の法律学科が法治のあるべき価値観から離れたことを感じています。

このような疑念と恐怖を、実体を例をあげて証明することはなかなかできません。一部の法学部の学生から、憲法の講義内容が徐々に政治的に偏ってきたと聞きましたが、香港の大学の法律学科には確実に重大な過ちがある、とまでは聞くことができませんでした。しかし、各大学が(公的にも曖昧にも)政治的立場を表明するようになるにつれ、香港で法律を専攻すれば、どんな結末を招くことになるか、心配でなりません――一面的な知識しか学べないかもしれないし、現実の不条理をさらに知ることになって、他の人たちのように集会参加の罪で刑務所に行くことになるのかもしれないのです。

海外留学を決めて、私の心の中は五味紛陳*6です 。海外留学すれば、外国で働く可能性が高くなり、香港に帰る可能性は少なくなると意識しています。周りの親戚も友達も、現時点では海外留学が最善の選択だと言います。しかし、わたしの心にはいつも、言葉では言い尽くせない未練があります。

*1  「高校生・張」という意味。中学6年生は日本の高校3年生にあたる。
*2 香港の大学入学共通試験のこと。
*3  「文憑試」の前に 受験準備期間として学校から1か月ほどの休暇が与えられる。
*4    香港の高校で2009年から必修科目となっていた「通識教育」(リベラル・スタディーズ)は生徒の視野を広げ、批判的思考を養う先進的な試みとして世界的にも注目されていたが、香港国家安全維持法の施行を受け、今年9月の新学期から、中国の歴史や政策を学ぶ「公民と社会発展科」に置き換えられる。
*5    9月入学の新1年生から新たなカリキュラムになる。
*6    五味は甘・酸・苦・辛・塩辛。さまざまな思いでいっぱいになる。

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