難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-
番外編 香港、抗う人びとの歌 1
倉田明子
(つづき)
ここに紹介する動画は、2009 年の事件 20 周年の時に集会で流された「自由花」のビデオだ。天安門事件当時の映像と香港の追悼集会の映像が交互に出てくるような編集になっている。
でも果てることのない夢がある、覚えていよう
どんなに雨に打たれても、自由は花開く
でも果てることのない夢がある、覚えていよう
僕たちの心で、覚えていよう《自由花》
(日本語訳:倉田明子)《自由花》「六四」二十周年製作 :YouTube ame218
https://www.youtube.com/watch?v=9L_qz7LuqVU
私もこの集会には何度も参加し、「自由花」のメロディは覚えてしまった。みんなで歌うと一体感が生まれる、そういう力のある歌だと思う。
この写真は、私も参加した 2017 年の写真で、ちょうどろうそくに火をつけて上に掲げ、この歌をみんなで歌っている場面だ。
そしてもうひとつ、歌が印象的だったのが 2014 年の雨傘運動だった。
この運動は行政長官選挙に「真の」普通選挙を導入することを目的としていた。政府庁舎周辺での抗議活動に集まった市民が道路に溢れ、そこに大量の催涙弾が撃ち込まれたが、人びとを排除しきれず、結果的に香港の 3か所で 2ヶ月あまり道路が占拠された。催涙スプレーをよけるためにデモ隊が準備していた傘と、民主派のシンボルカラーとなった黄色が組み合わされ、黄色い傘がこの運動の象徴となった。
しかし、最終的に要求は認められず、強制排除という形でこの運動は終わる。非暴力不服従の理念が貫かれた運動だったが、その過程では、非暴力への疑念も生まれ、要求を通すには一定の実力行使も必要なのではないか、と考える若者も現れた。道路占拠に至る過程や、選挙が始まった当初の段階では、警察との激しい衝突や市民同士の小競り合いなども起こったが、占拠が長期化するなかで現場にはなごやかな空気が生まれ、独自の文化ができていったように思う。占拠の空間は、独創性豊かなアートに満ちていた。参加者が思い思いにアート作品をつくったり、訪れた人と一緒に絵を書く場所もあったり、雨傘の折り紙が飾られていたり。
風刺も効いていた。中国国内である新聞社が今年のニュース写真として習近平主席が視察先で傘を差している写真が選ばれた、というニュースが伝わると、瞬時にその写真を等身大に引き延ばし、黄色い傘を持たせたものが路上にあふれたりもした。また、参加者たち自身で占拠エリアの秩序を守る努力もなされていた。清掃やゴミの分別などが行き届き、また自習スペースや図書室もあった。自律的な「街」が作られていたのだ。
そして、歌もよく歌われた。
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