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難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

番外編    by   Age. I

Silent majority or Black sheep?

私は思う。“ Black sheep effect ” ほど面倒なものは存在しないと。Black sheep effect とは、集団内で高く評価される者は、集団の外の者より高めに評価される一方,集団内にいながら異質性をもつ者は、集団の外の者より低く評価される現象をさす。集団意識の投影は投影される側の合意など必要としないので、その評価軸から逃れようがない。

集団化することでしか成し得ない事物の存在は否定しようのない事実である。しかし、それによる弊害にも目を向けなければならない。Black sheep effect は人々に “ Black sheep ” となることを忌避する心性と言論の萎縮をもたらし、重要な意思決定局面において修復しようのない分裂を生じさせる。これを克服しうる唯一の方法は明瞭なコンセンサスの構築だろう。その最初の歩みとして有効な手段は言語表現ではない。演劇や映画、写真等の非言語表現を内包する諸芸術を媒介とした意志の共有だと考える。ひとつの作品に対して受け手の数だけ解釈が異なること(差異)が普遍的に許容されているからだ。芸術の下に寄り合う人々の姿は集団のあり方を規定しうる。

解釈の余地という点では歴史教育におけるダークツーリズムも同様だと言える。紹介に留まってしまうが、ドイツでは歴史教育に様々な手法を用いた “Erinnerungskultur(記憶文化)” という取り組みが存在する。これに関しては、岡裕人氏の『忘却に抵抗するドイツ――歴史教育から「記憶の文化」へ』*1を手にしていただければと思う。

恐らくコンセンサスの本質は結果ではなく過程にある。つまり、意見の一致は付随的なものにしか過ぎない。本来意識すべきは、言語の用法的・思想的差異を認識した上で言論のアリーナを築くことなのだろう。

偉そうに持論を展開してきたが、やはり自身が Black sheep となることは怖い。しかし、それ以上に恐ろしく忌避すべきは Black sheep の存在が許容されない社会の到来である。最後に欅坂 46 のデビュー曲の一節を引用したい。

 

誰かの後ついて行けば傷つかないけど  その群れが総意だとひとまとめにされる             

欅坂46「サイレントマジョリティー」

 

*1 岡裕人『忘却に抵抗するドイツ:歴史教育から「記憶の文化」へ』大月書店、2012年


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