出版舎ジグ
jig-web 連載

歌は消えない ー 暗い時代の香港ポップスヘッダー画像

難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-

番外編 歌は消えない -暗い時代の香港ポップス-

小栗宏太

(つづき)

確かに、大人数の編成や、公開オーディションやドキュメンタリーを通じた結成経緯のエンタメ化、ラップあり、ダンスありのアップテンポな楽曲など、K-POPの影響を随所に感じさせるグループではある。

ただ各メンバーが個別の名義で発表するソロ曲は、カントポップの伝統を感じさせるバラードから、おしゃれなR&B、Queen風のロックオペラまで、音楽的にも多様であり、いち音楽好きとしても楽しめた。

なにより彼らは、私が香港の音楽に関心を抱くようになって以来はじめてリアルタイムに経験するスターであり、ムーヴメントであり、それ自体が新鮮で興味を惹かれた。彼らに夢中になった若い香港人の感覚も、もしかしたら似たようなものであったのではないかと思う。

MIRRORのメンバー、呂爵安(イーダン・ルイ、1997年生)が2021年1月にリリースしたソロ曲『E先生 連環不幸事件』(Eさんの連続不幸事件)。カントポップの伝統に忠実なピアノバラードで、Youtube のMVは1400万回以上再生を記録し、KKBOXなどの音楽配信サービスでも年間再生数ナンバーワンとなったヒット曲。

MIRRORのメンバー、陳卓賢(イアン・チャン;1993年生)が2021年3月にリリースしたソロ曲『DWBF』。イアンは、香港を拠点に活動するR&Bシンガー方大同(カリル・フォン)への憧れを公言しており、本曲にもその影響が見られる。

2021年3月リリースのMIRRORのメンバー、柳應廷(ジェール・ラウ;1992年生)のソロ曲『狂人日記』。ジェールはMIRRORとしてデビューする前は歌手を目指してバンド活動をしていた経験があり、ソロ曲にもロック調の楽曲が目立つ。本曲はQueenやMuseを思わせるドラマチックな曲調のロックオペラにしあがっている。

 

*5 阿栗(小栗宏太)「十二人のイケメンたち:パロディから見るMirror現象」
*6  https://www.nytimes.com/2021/08/12/world/asia/hong-kong-mirror-band.html


次ページにつづく

【難以言喻的香港生活所思】連載記事一覧はこちら »

↑