難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-
番外編 歌は消えない -暗い時代の香港ポップス-
小栗宏太
(つづき)
またMIRRORに注目が集まり、音楽が人々の話題として復活したことで、才能ある新世代のアーティストたちが注目を集める機会も増えた。MIRRORへの楽曲提供や、MIRRORとの共演をきっかけに世間に「発掘」され、一躍チャートの常連となったミュージシャンも多くいた*7 。
MIRRORのメンバー姜濤(キョン・トウ;1999年生)が2021年3月リリースしたソロ曲『Master Class』。メロディよりもリズムを全面に出した新鮮な曲調が話題を呼び、作曲者である湯令山(ギャレス・トン;1999年生)への注目も高まった。ギャレスは英語楽曲を中心に発表する若手R&Bシンガーであり、カントポップ業界の外部で活動する、おそらくは知る人ぞ知るミュージシャンだったが、一躍人気歌手となった。年末には自身初の広東語曲もリリースしている。
Gareth.T – 勁浪漫 超溫馨 (official video):ギャレス・トンが2021年11月にリリースした初の広東語曲。自身の得意とするR&B調の曲に広東語詞をのせている。
MIRRORを輩出した『全民造星』もシリーズ化され、多くの人気歌手を世に送り出した。
全民造星シーズン2で見出された張天賦(マイケル・チャン、通称“MC”;1996年生)が2021年6月にリリースしたR&Bバラード。「反対は無効」という物騒なタイトルだが「外の世界には僕の君への愛に反対する声がたくさん あるが/なんと言われたっていい ただこのまま君と熱いキスをしていられれば」と歌うラブソングである。イアンのDWBFと本曲には、カナダ育ちのシンガーソングライター馮允謙(ジェイ・フォン)が作曲に携わっている。
全民造星シーズン2で見出された曾比特(マイク・ツァン、1993年生)が2021年1月にリリースした楽曲『我不如』(僕なんて)。ベテラン作曲家の郭偉亮(エリック・クォック)が作曲した、カントポップの伝統に忠実なバラード。
全民造星シーズン3で見出されたAnsonbean(2000年生まれ)が2021年7月にリリースした楽曲。外見が韓国の人気シンガー、RAIN(ピ)に似ていることから「香港版RAIN」とも呼ばれる。
同シリーズからは、MIRRORの兄弟グループである4人組のERROR、女性版MIRRORとも言える8人組のグループCOLLARも結成され、人気を博している。
《我們不Chok》- ERROR
COLLAR《Call My Name!》Official Music Video
2021年は、そんな風に、突如として新世代のスター歌手たちが多く現れ、香港の音楽シーンが活気付いた1年だった。
先述の立場新聞の特集によれば、音楽配信サービス Spotify の香港内再生数トップ200曲のうち広東語の歌が占める割合は、2020年にはわずか4割ほどにすぎなかったが、2021年に入ると上昇し、10月末には6割程度にまで達した。広東語楽曲の再生数トップ50をみても、2020年には10年以上前にリリースされた「懐メロ」が17曲も含まれていたのに対して、2021年には最新の楽曲が大部分を占めるようになった。
香港の人々が再び最新のカントポップを聴くようになったのだ*8 。
*7 阿栗(小栗宏太)「香港の歌手は死んだのか:ニュースターの誕生」
*8 阿栗(小栗宏太)「歌だけは残った:統計から見る2021年の香港音楽」
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