難以言喻的香港生活所思 ―香港の現在、言うに言われぬ思い-
番外編 歌は消えない -暗い時代の香港ポップス-
小栗宏太
(つづき)
2022年の1月末には、内部関係者のリーク情報として、公共ラジオ放送局である香港電台の上層部が、音楽番組を担当するDJに対して、10組のアーティストの楽曲をオンエアしないよう通達した、との噂が流れた。真偽は不明であるが、昨今の香港の政治状況を思えば、ありえない話ではないだろうと思う。この10組には、デニスのほか、本稿で取り上げてきた C AllStar、RubberBand、Dear Jane、Serriniも含まれている。
こんな状況だからこそ、2021年の香港に、様々な形で人々の心に寄り添うようなヒットソングが多く生まれたという事実を、あらためて記録し、記憶しておきたいと思い、この文章を書いた。
そして、香港に関心を抱く日本の他の人々にも、そうした楽曲に、さらにこれからも香港に生まれるであろう新しい歌に、ぜひ耳を傾けてほしいと願っている。それこそが、きっと、香港の人々の言うに言われぬ思いを代弁する、声なき時代の声なのだから。
幸いにも、今日も香港には歌がある。
少なくとも、今はまだ。
- 本稿は、東京外国語大学倉田明子研究室主催オンラインセミナー「歌は消えない~ポピュラー音楽から読みとく香港社会」(2022年2月20日)の報告をもとに構成した。
- 楽曲動画のリンク画像を除き、写真はすべて筆者撮影