どら猫マリーのDV回想録 その11
ポーとエリー と アッパ
「アッパ やさしかった です」
そうだったのか。それならよかった。
飛び散ったガラス。ポーを抱いたまま保育園のバスを追いかける後ろ姿。怒鳴り声。ポーに食べさせるとき自分も開いてしまう口元。ポーのお尻をリモコンでたたくタイミングがずれて、四角くみみずばれた小さな背中。おいしそうに半分こにして食べた肉まん。家族に向かってなげられたのは、ポー誕生日プレゼントのおもちゃの飛行機だったっけ。割れたコックピット。
様々な、「ポーとアッパ」の思い出が交差する。
「やさしかったんだね。ポーはアッパが好きだったの?」
確信をもって頷くポー。
そうか、好きだったのか。そうだよね。よく一緒にシャワーしてたよね。
わたしがひとり先に脱出してた最後のひと月は、アッパとポーとエリーの3人暮らしだったね。
韓国ならではの配達文化があってよかったね。参鶏湯だのソルロンタンだの。取り戻しにいったとき、生ごみが辛くない食べ物ばかりだったのは胸打たれた。夫本人はどちらかというと苦手な韓国料理を選んで注文していてくれた。近所に住む親戚たちのアドバイスかな。それとも、当時もう現地妻でもいたのかな。今となってはどうでもよいことだけれど。
たぶん、ふーふーしながら食べさせていたのだろうなと思う。
夫の写真は、実はできる限り捨ててしまった。
だけどポーにはしっかりと残っていた。それも愛された記憶として。
少しほっとしながら、もしかして別の道もあったのではないか、もう少し我慢していればよかったのではなか、という答えのない問いにぶち当たる。
jig comment「どら猫マリーのDV回想録」メモ に つづく