どら猫マリーのDV回想録 その12-2
ベビーシッターさんのこと Ⅱ
「でもさ、エリーオンマあれだよね。なんかさ、ダメだよね。自分の人生っていうかさ、自分も大切っていうかさ」
その人は、同じことを繰り返し、口にしていた。
「あれ、エリーちゃん、おむつ替えようか。」
今日は、これまでできなかった分も頑張ると、その人は笑った。
その人の手の動きはいつ見ても優しかった。
「この間ね、あの、ほら、ここから車で帰って、夫がもう家にいたの。で、お酒飲んでてさ。で、何か、わーってなっちゃって。とりあえず、チワワ連れて外、出たんだよね。」
その人は小型犬を抱くようなしぐさをした。
「もう、ああなっちゃうとさ、止められないっていうか。危険。モッテヨ(できない)。」
「今まで気が付かなかったんだけどさ。どうしよっかなあって、見上げたらさ、看板があってさ、困った女性って書いてあったから。困ってるなあって。私、困ってるなあって思ったの。
で、チワワいたけど、仕方ないからそのままその看板のところに行ったらさ、チワワいてもいいって。そのまま保護されちゃってさ。
なんか、携帯電話使えなくなるんだね、あそこ」
とりあえずは、そこにいる、らしい。
いつも、携帯のゲームをして気晴らししていたのに、できなくて困ったというようなことを言って笑った。
どうしてだろう。この信仰を持つ女性に多いように思う。笑えないことで、笑う。笑おうとする。
あと2回ほどのケアはそこから通う旨を私に伝え、エリーと遊び、掃除をし、その人は帰って行った。
取り残されて、どうしようもない孤独感が私を襲った。ポーが帰ってくる時間だった。
その人が作ってくれたのは、いなりずしだった。
韓国にも日本と似た味がある。ポーもよく食べていた。
「これ、子どもたち好きでさ、よく作ったんだよね」
そういって手際よくご飯を詰めては並べていった。
そして、明日来るからと言い、帰っていった。家ではなく、その安全な場所に。
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