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春 待つ こころ 障碍の児の思春期、ノート 堀切和雅


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総当たり

僕らは東京都豊島区に住んでいるので、基本的には豊島区の幼稚園を中心に探すことになる。が、住居が文京区と豊島区の境目近くにあり、実際に最も近い幼稚園は、文京区の幼稚園になる。豊島区内の幼稚園は公立・私立併せて18園。それにやはり隣り合う新宿区のいくつかの園を加えて、合計二十数園の園長先生あてに、まず、以下のような手紙(抜粋)を出した。

私どもは、××に住む、堀切響(女児)の保護者です。響は、8月29日で4歳になりましたので、入園についてご相談したいと思い、お手紙差し上げることにしました。

響には、ミトコンドリア病という、先天性の代謝異常の病気があります。ミトコンドリア病の症状はタイプによって千差万別ですが、細胞の活動に必要なエネルギーが充分につくれない、という病気です。

乳児発症のミトコンドリア病としては、響は症状が軽い方で、元気です。ただ、風邪などで発熱すると、エネルギー消費が高まって症状が悪化しかねないので、感染症には注意しないといけません。それで、保育園は諦めて、家で育てておりました。
ですが、医師にも、発熱したお子さんが登園してくる可能性のいくらか少ない、幼稚園なら大丈夫でしょう、と言われておりました。

発達は、不安定ながら独歩、言語は、二語文、三語文をいくらか使い始めたところです。聞く方は、単語はわりと理解しますが、まあ、まだ聞き分けはありません。補助員さんについていただければ、幼稚園生活が送れると思います。

響にとっては、健常なお子さんと遊ぶことは大変良い刺激になりますし、響も、感情豊かな子ですから、貴園の子どもたちのなかで、ある存在意義を持ってくれると思います。この社会にはいろいろな事情の人がいるということも、子どもたちは分かってくれるのではないかと存じます。

貴園の、障碍児保育に対するスタンス、保護者さんたちの雰囲気、園長先生のお考えな どを、お忙しい中恐縮ではありますが、ご自由に書いていただいて、同封封筒にてお送りくださると幸いです。

かしこ

「続・歩くように 話すように 響くように」連載第13回より再録

―つづく―


「続・歩くように 話すように 響くように」

2006年3月20日~6月10日 中日・東京新聞夕刊文化面連載
より再録(データ等は当時のものです)。

ほりきり かずまさ はじめ編集者、つぎに教員になり、そうしながらも劇団「月夜果実店」で脚本を書き、演出をしてきた。いまや劇団はリモートで制作される空想のオペラ団・ラジオ団になっている。書いた本に『三〇代が読んだ「わだつみ」』『「30代後半」という病気』『娘よ、ゆっくり大きくなりなさい』『なぜ友は死に 俺は生きたのか』など。

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