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どら猫マリーのDV回想録 その3

プレイバック・パンデミック・パニック

つい最近、新型コロナウィルス感染症のニュースを見ていて、不謹慎にも私は心が軽くなるのを感じた。だって、私の身に何が起こったかを語るとき理解してくれる人はほとんどいなかったから。感染症が蔓延してね、と語ったところで経験している人は少ない。フーンと流されることがほとんどだった。これで少しは分かってもらえるかもしれない。私の履歴書の行間で何が起こったのか。もちろんそれは、私の結婚は、私の人生の選択は間違っていなかったと駄々をこねるようなものだけれど。

安堵とともに、母につい口走ってしまった。
「ポーとエリーを連れてどうしようもなくなったときも、こんなだったなあ」

「ねえ。それってどういう意味? 今さらやめてくれない? ふんばらなかったからでしょう? ふんばらなかったのは、実家がしっかりしているからじゃないの。わたしはそれもできなかった。できなかったら今このザマじゃないの。あなたは幸せね。それは自覚した方がいいわ。それに元夫さんをかばうような言い方やめてちょうだい。悪かったのは夫じゃなくて世の中だ、みたいな言い方。そこまで汲み取ってやる要はないわよ」

そうね。ほんとうにその通り。ああ、ここにもいたのだった。「うねり」にどっぷり浸かっている女が。浸かっている、のか、漬かっているのか……痛恨のミス。私はいつまでこの人、母に共感を求めてしまうのだろう。

“あなたは幸せね”
幸せ。
本当に、幸せ。
だってこんなどうしようもない大人二人のところに、ポーとエリーはやってきたのだもの。二つの命を目の前にしたとき、不幸だなあなんて絶対思わない。子どもは親を選んでくるなんて、自己啓発系の本は語っていたけれど、ねえ、何が決め手だった?コロナでお出かけができない2人は紙粘土に夢中だ。1年生で使い切らなかった絵具を混ぜて一人は野菜を、一人は太陽系の星を作ってご満悦。青い絵の具を白い紙粘土に混ぜ込むといい感じに地球になる。

「ねー、ままー、おしっこし[お引越し]しちゃったお父さんて今どこにいるんだろうね」
と痛恨の一言をエリーがぽつり。そうねえ、どちらかというと引っ越したのはママとポーとエリーなんだけどね。

ほんと、どこにいったんだろう。優しかった元夫くんは、どこにいったのだろう。子どもたちに話さねばならない締め切りがどんどん迫っている。エリート意識と表裏一体の(たくさん学んでいるわりに活かせてないっぽい)劣等感なんてさておいて、一から社会学を、学び
なおしたい。帝国主義やら、女性らしさやら……世の中ではどうでもいいとされそうな些末なことにいちいちかじりついていた、大学院での議論を思い起こすマリーなのでした。

どらねこまりー ペンネーム。2 児のシングルマザー、DV サバイバー

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