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どら猫マリーのDV回想録 その9

マリーの逃亡劇 “アジア女性の連帯” PARTⅡ

「立ち入ったことでごめんなさい。大学ってどこ?」
韓国の女子大に留学していた私は、やっぱり気になってしまって尋ねた。もしこれで同じ大学だったらただならぬ縁を感じてしまうだろう。
「〇〇です」
と、いう答えに、鳥肌が立った。ソウルのシェルターの最寄り駅は、その大学のすぐ側だ。
私は数日前までそこにいた。思わず、情報非公開のルールを破って、そのことを口にした。たぶん、興味本位で何かをする人ではない。

彼女は本当にショックを受けた顔をしていた。私、毎日通っているのに、そういう施設があることも、そういう女性がいることも何も知らなかったと。

子どもたちがバタバタと走ってきた。
そんなに多いわけではないのに、一人一人にパワーがあるのだろう。豆をばらまいたような音、と誰かがが比喩していたけれど、ばたばたばたと、サイズの大きめなスリッパが、またそれをいっそう、パワフルなものにする。
「終わったみたい…」
彼女は母親の様子をうかがっていた。

「ほれー、帰るぞ、娘!映画でも見に行こうよ。レイトショーまだ間に合うよ!」
どんなに大きくなっても子どもの帰省はうれしいらしい。飲酒もできる年齢だ。
今夜は女子会というところだろう。そういえば車だったけど。韓国には代理運転という便利な商売がある。
「あのう…なんか、すごい、えっと、色々お話できたのに… 本当に、貴重なお話をありがとうございました。えっと、本当に、お元気で。きっと大丈夫になりますよ。お子さんたちにもよろしく…」
さっさと玄関に向かう母親を追いかけながら、私に視線を送る彼女。

立ち上がるととても背が高かった。
彼女の人生は、また新たに作り出された女性像を追いかけ、そしてそれを求められもするのだろう。彼女の幸せを願わずにはいられなかった。

なれないものばかりかもしれないけど、負けないでね。次世代を担うだろう貴女。女性の権利が広がりつつあるとはいっても、それはそれできっと制約も出てくる。

行ったり来たり、一歩進んで二歩下がったり、振り子のように揺れ動きながら私たちは闘い、妥協し、道を見つけていくのだと思う。

 

どらねこまりー ペンネーム。2 児のシングルマザー、DV サバイバー

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