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どら猫マリーのDV回想録 その12-1

ベビーシッターさんのこと Ⅰ

成田空港に降り立ったあの日。

ポーが3歳で、エリーが1歳。ベビーカーは持ち出せなかった。
荷物が重いのに、持ってくれる人はいなかった。

いつも持ってもらっていたその重さに驚いて、持ってくれていた人から逃げてきたんだなあと思った。

こんな荷物、軽々と持ち上げてやるさ。
ちょっとやそっとのことで落ち込まない。
もう前しか見ない。そう思っていたのに。
どうして気になってしまうのだろう。
どうして我慢できないのだろう。
どうでもよい小さな話じゃないか。いいじゃないか。
父親が机の上や引き出しを触ることくらい。いいじゃないか。
家族、なのだから。

「独立したいんです!」
そう意気込む私にその人は、
「だから、あれかな、ご実家を出たいってことなんだよね? はいはいはい。生計をね、別に……いわゆる、スープの冷めない距離、だよね」
と、私のニーズを一つ一つひも解いてくれた。独立の裏には両親からの「支配」があった。これだけ世話をかけていて、「愛」と言えない私。
スープ……アツアツのスープで、おなか一杯の私。だけれど、時間が経てば、おなかがすくことなんてよくわかっている。だけど、その温度と量じゃ、嫌。具も選びたい。そういうこと? これではまるで、わがままじゃないか。ダメな奴だなんて思われたくない。変なプライドが邪魔すると、ニーズはますます不明瞭になった。

もう何もかも我慢したくなった。

「うーん……でもねぇ。けっこう聞きますよ、そういう話。安定してくると、実のご両親と何だか合わなくなってくる……って、まあ、当たり前だよね。人と人だもん。親子でもさ。」

その人は私の年収や状況を尋ね、賃貸なり、ローンを組むなりして十分に生活していけるだろうと言った。

確かに、勤務先の事業所の職員が、「俺の新しい服なんて子どものおさがりだよ」と言いながらも、共働きでなくお子さん二人を私大に進学させ、今年ひとりは就職した、なんて話も聞く。

住宅ローンを組み始めるかどうかは別として、私は元気をもらった。
「市役所なんか行くもんじゃない。十把一絡げだ。他人事だよ。親身になる人なんて一人もいないよ。」と、退職公務員の父が言っていた、その場所で。

そして私は、最終的な目的は、「生計、住居を別とすることである」とを父に伝えた。
今住んでいる、というか“居座っている”、一戸建てではなく、ながらく荷物置き場となっているマンションを使わせてほしい、住もうとすれば住める家はあるのだ、と。

 

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