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どら猫マリーのDV回想録 その5

マリーさんの誇りと絶望(話は少し、さかのぼる)

――時は2020年、2021年の春と夏
ドラえもんも延期。
プリキュアも延期。
博物館年間パスポートは今日まで。と思ったら、昨年の今日、だ。あれからもう1年経ってしまったのか。水族館、年間パスポートは要更新…。

こんなご時世だものしかたない。それでもよしとしなければ。去年の2月の前半には、いちご狩りには行けたのだから。手帳のスケジュールの片隅で待っていたいろいろな行事は、矢印をよいしょと書き加えられて、新しいページにお引越し。暖かくなったらバンバン行くぞ!と思って揃えた年間パスポートも、ひとつひとつ終わりを迎えた。

話を遡っている間に世間は再び緊急事態宣言下の自粛生活を強いられている。
感染症の蔓延、経済の停滞、家族の崩壊。
返し縫のような毎日。日常の些末な物、事が「あの日々」に繋がってしまう。
繋がってしまうのか、繋げているのか。

大学院時代の恩師のツイッターを久しぶりに見てみたら、コロナ禍に苦しむ国民を「棄民」と称していた。御年八〇余歳。あっぱれである。日本思想史の大家、ここにあり。

棄民の棄の字でまた思い出すのは我々の行政上の立場のこと(「遺棄」*)。捨て置かれるなんて、慣れたものですよ。と、届かない思いをふと画面で笑う恩師に投げかけてみた。

*(悪意の遺棄)民法770条1項2号に規定される法定離婚事由のひとつ。連載第4回参照。

続いて開いたのは、うってかわって動物園のホームページだ。
休園のお知らせ、と赤色で記されている。わかっているけれど、ため息は出る。
さて手帳に増えたこの矢印の数。もう一回引っ越すことにならないといいなあなんて思っていたけれど、杞憂では済まなかった。年間パスポートも、一回目の緊急事態宣言の時は休園した日数分だけ延長してくれたけれど今回はそうもいかないだろう。

期限2か月前に再申請すれば20%オフ!なんてうたい文句につられて鼻息を荒くして通い詰めた水族館。なんだか遠い遠いおとぎ話のようだ。

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