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どら猫マリーのDV回想録 その13

カルトな私 partⅠ

  高麗人参濃縮エキス

術後の母が10年以上はずっと付き合った、このおぞましき体質。が、劇的に変化した。
母はある日、別人のようになった。顔色が良く、声もはつらつとしていた。いつも真っ白だった目の下のところは桃色になり、終わっていたと思った月経が再開、昔のスカートの腰ホックがすんなりとかかるほどスマートになったと言っていた。こぶし一個分と思われる筋腫が消失していた。

母は感動した。私も感動した。たったの10日。たったの10日、土臭いようななんとも言えない匂いというか、香りというか、それを試した結果。そう、それは、韓国の高麗人参の濃縮エキスだった。一和という会社のものだった。そのバックにはかの有名な統一教会が関与していようとは、そのとき、知る由もなかった。

高額定期購入者となった母は、健康法とか無料整体サービスだとか、暇があるとセミナーに参加するようになった。そしてある日、「本題」に入った。統一原理講習の始まりである。

  ビデオセンター

私が高校2年生くらいだったろうか、やけに「神」とかアダムとイブとか、人類歴史の始まりとかいう発言が多くなった母。とにかくうれしそうで、これまでの悩みが一掃されたように明るかった。お味噌汁はもちろん、煮魚に至るまで、高麗人参エキスが加えられ、ちょっとぼけた味になった。ことあるごとに「人類の始祖の堕落がね」と言っては嬉々としていた。
「あなたも行ってみなさい。聴く価値があるから」

そう言われて整体とか健康セミナーとかに参加するようになった。確かあれは、大学1年生のときだっただろうか。ビデオセンターというところを紹介され、そこには私の担当のカウンセラーさんがいた。

「なんでも話してくださいね」

大学デビューなんて言葉があったけれど、私には無縁だった。好きになった先輩が手をつないでくれたので有頂天だったのが夏休み前半のサークル合宿。でもすぐに、その先輩にはすでに3人の彼女がいることが分かり、しかもそのうちの2名は、帰りの車の中に一緒に乗っていたという衝撃的、笑劇的事実が判明。情けないのと驚いたのとぼんやり歩いていた私は、階段から滑落。足の甲に立派なヒビが入った。夏休みの後半は、片足に包帯を巻き、挑戦しようかと思っていた運転免許取得も、高校の同窓会も、何もかもあきらめて、名作といわれる映画のDVDと、帰省中の友達からの応援メールだけを見て終わった。

完全に出遅れていたというか、今思えばそれで本当に良かったとも思う。要は暇だったので、時間があけばビデオセンターでお茶を飲み、失恋の話とか聞いてもらい、のろのろと過ごしていた。見せてもらうビデオは、ヒューマンドラマや偉人伝、お坊さんと有名人のトーク番組など。

「少女漫画のような世界は、ない」と、少し早めに現実に引き戻された傷心の女子大生は、新しい生き方を探していたし、それなりにためになる内容だったから、それほど苦痛な時間ではなかった。

 

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