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どら猫マリーのDV回想録 その8

マリーの逃亡劇 “アジア女性の連帯” 編

どうしたことだろう。今年は敷地内でスズメバチが大発生。
巣がない方ならともかく、窓の開放は禁止。利用者にはことあるごとにイオン飲料を飲ませ、検温を繰り返しながら、熱中症を防ぐ。交代で冷房のある部屋に行ってみたり、エアコンの効く穴場=送迎車に分散乗車させ、ドライブへGOしてみたり。そういえば、水鉄砲大会だの、おやつレクリエーションをかき氷屋さん風にしていたグループもあったっけ。

「マリーちゃんよく平気だね」
と、先輩職員がおでこに冷却シートを貼って排泄誘導している。そうか、その手があったか。平気……ではない。広い所内をモップ掛けでもしようものなら、まさに、額に汗するしかない。しかし私は全く別のことを考えていた。どこかで経験したなあ。このむしむしと逃げ場がない感じ。そうだフィリピンだ。

学生時代に訪れたフィリピンの田舎でのこと。ショッピングモールとかは別として、エアコンは小学校の校長室とか、応接室のようなところにしかなかった。日陰はなぜかひんやりしている。私は韓国留学期間中、友達に誘われるままに、ボランティアを名目にそこに訪れ、3週間ほど滞在したのだった。どこの宗派だかは忘れたが教会のようなところや、学生寮の空き部屋等を間借りして、30人ほどで集団生活した。

韓国語が上手くなりたい一心で、日本人がいない空間に行きたかった。「日本のパスポート見せて。韓国のと色が違うね」なんてほほ笑む、おっとりとした友人たちだった。
あの時は、たしか2月だったけれど、十分常夏だったフィリピン。

物資輸送の不手際だかなんだかで、小学校の修繕ボランティアなんて計画通りにはほぼできず… 韓国語も英語も会話を長く楽しめるほどの語彙力もなく、手持ち無沙汰な私は小学校周辺のごみ拾いを行っていた。するとどうだろう、それまでポイ捨てしていた子どもたちがごみを集め始め、私に渡してくれたのだった。無邪気な小学生たちを思い出す。

「あー、これって手軽な海外旅行ってわけね。タダだね、タダ! アフリカって思えばいいんだね! ナイスー!」

みんな辛いだろうに。私のこののんきな思い出話を否定したりはしない。水が出にくいといっても、エアコンが効かないといっても、隣はコンビニ。扇風機だってある。何より、選択の自由があるじゃないか。

工夫に工夫を重ねてようやく乗り切った6月後半。
業者が物々しい――けれど制服と挨拶が妙にさわやかな――雰囲気で、屋上やら電気系統のブースやら往来すること数日。ある日ふと、頭上に冷気を感じたのだった。職員一同、もはや支援も忘れて天井へと両手を伸ばす。インカムで「エアコン直りました!」と流れたとき、皆が拍手喝采したことは言うまでもない。

そうはいっても暑い。もう一つの夏の記憶が、否が応でもよみがえってくる。
「お前に、母親の資格なんかない。出ていけ!」

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